症例Report
『短頭種気道症候群』
:2017. 9. 24
:西川
症例
短頭種気道症候群 <フレンチブルドッグ 去勢オス 10歳齢>
稟告
仰臥位で睡眠中、度々呼吸が止まる。また、覚醒中の呼吸音は喘鳴性である。
身体検査所見
鼻孔の狭窄が認められた。また、麻酔下において、軟口蓋の過長および喉頭嚢の反転が認められた。
以上の所見より、短頭種気道症候群として、外科的処置を行った。(臀部に発見された 直径1cmの皮膚肥満細胞腫の切除術と同時に実施した。)
手術
鎮静および麻酔時における呼吸の管理を特に慎重に行い、以下の手術を実施した。
(1)鼻孔狭窄に対して 鼻鏡を構成する背外側鼻軟骨をメスで切除し、縫合した。
[術前の鼻孔]
[術直後の鼻孔]
(2)軟口蓋過長に対して 過長した軟口蓋を牽引し、炭酸ガスレーザーで焼烙しつつ切除し、縫合した。
(3)喉頭嚢反転に対して 外反した喉頭嚢を炭酸ガスレーザーで蒸散させた。
[術前の喉頭付近の様子。過長した軟口蓋(鉗子で牽引しているもの)が上部気道をほぼ覆っている様子が伺える。]
[軟口蓋過長と喉頭嚢反転を整復した後の喉頭付近の様子。気管チューブ上方の縫合跡が軟口蓋過長の整復跡、同下方の焼烙跡が喉頭嚢反転の整復跡であり、両手術により、上部気道が確保されている様子が伺える。]
術後の経過
覚醒直後はやや興奮する傾向があったため、酸素室で過ごしてもらうとともに、必要に応じてアセプロマジンの静脈投与により鎮静させ、数日管理した。
その後は呼吸状態が安定し、喘鳴性の呼吸音はほぼ消失したたため、退院となった。 退院後の経過は良好で、オーナー様からは、「以前は呼吸音で家の中のどこにいるのかすぐ分かったが、退院後はどこにいるのかわからなくなった」とのお声をいただきました。
短頭種気道症候群とは
短頭種気道症候群とは、短頭種(ブルドッグ、ボストンテリア、パグ、シーズー、ペキニーズなど)によく認められ、鼻孔の狭窄、軟口蓋の過長、喉頭嚢の外反などにより、気道が狭くなってしまう疾患です。
症状としては、呼吸の雑音、睡眠時の無呼吸、チアノーゼなどあります。 治療方法としては、軽度の場合は減量が有効な場合もありますが、重度の場合は、原因除去のための複合手術(狭窄性鼻孔の切除、過長した軟口蓋の切除、喉頭嚢の切除など)が必要となります。