症例Report
『肛門嚢腺癌 メトロノミック療法』
:2015. 9. 12
:minami
症例
肛門嚢アポクリン腺癌 <ミニチュア・ダックス 9歳 避妊メス>
主訴
肛門のすぐ下(7時方向)に3cm大の腫瘤があることに昨日気付いたとのこと。
しぶりや血便などの症状は特に認められてはいない。
細胞診検査実施
異形性は乏しいものの上皮性集塊が認められました。
尾側外観
臨床診断
臨床症状および細胞診検査から、肛門嚢腺癌を強く疑う
その他、血液検査、レントゲン検査や腹部超音波検査では著変は認められず、明らかな転移等は認められないことから外科的な摘出手術をお勧めしました。
手術
今回の症例では腫瘤が肛門嚢導管に近接していたため、導管の肛門開口部までを切除しました。
腰下リンパ節群の腫大は認められなかったため、今回は処置していません。
病理組織検査
肛門嚢腺癌
肛門嚢腺癌は肛門腺にできる悪性腫瘍です。転移をしやすい腫瘍で、診断時点で約50%の子に領域リンパ節(腰下リンパ節群)に転移が認められると言われます。また、腫瘍に伴う合併症で高カルシウム血症が認められる事があります。非常に悪性度が高く、周囲への浸潤性の増殖や腫大したリンパ節による直腸圧迫が問題になりやすい腫瘍です。
今回の症例では明らかなリンパ節転移は認められませんでしたが、認められる場合でもその子によっては手術が適応となります。
術後抗がん剤療法
術後の排便障害もほぼ見られず、手術後16日目に抗がん剤の投与を開始しました。(転移病変を防ぐため)
好中球(白血球の一種)の減少が認められましたが、臨床症状としては明らかなものはありませんでした。
メトロノミック療法
抗がん剤投与での好中球減少が顕著になってきたため、飼い主様と相談の上、メトロノミック療法と呼ばれる治療法に転換しました。
これは投与出来る最大量を投与する従来の抗がん剤投与とは異なり、低用量を頻回投与していくという治療法になります。
低用量の投与であるため、副作用が少なく、また免疫細胞の働きを抑えている制御性T細胞の働きを阻害するので、免疫力はむしろ高くなるという効果も報告されています。
「体にやさしい抗がん剤治療」として最近注目を集めています。
その後
現在、腫瘤発見から約1年経ちますが、排便障害はなく転移なども認められず元気に定期的な通院をしてくれています。