症例Report
『蛋白漏出性腸症』
:2016. 2. 26
:山本
症例
蛋白漏出性腸症 <ミニチュアダックスフンド 3歳 未去勢雄>
稟告
2週間ほど前から下痢が続いている
検査結果
当初は下痢止めなどの対症療法を行ってみましたが、改善がなかった上、体重減少が生じてきたため精査を行いました。その結果、血液検査にて低蛋白および低アルブミン血症が検出され、超音波検査では消化管の明らかな異常は認められなかったものの腹水が確認されました。
内視鏡検査
慢性的な下痢症状及び低蛋白・アルブミン血症が認められた点から蛋白漏出性腸症を強く疑い、診断をつけるために内視鏡検査を行うことにしました。
<
[内視鏡所見]
写真は小腸の一部です。小腸壁に白く米粒状に見える拡張したリンパ管が観察されました。
蛋白漏出性腸症とは
蛋白漏出性腸症とは、消化管から身体に必要な成分である蛋白質が漏れ出てしまう疾患です。原因は様々ですが、代表的な基礎疾患は腸リンパ管拡張症、慢性腸炎、消化器型リンパ腫とされています。臨床症状も様々で、食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢、浮腫、胸水および腹水貯留などがみられます。本症例では病理の結果、リンパ管拡張を伴うリンパ球形質細胞性腸炎と診断されました。リンパ球形質細胞性腸炎はIBD(炎症性腸疾患)に分類される慢性腸炎の代表的疾患で、組織学的には消化管粘膜にリンパ球や形質細胞といった炎症細胞が浸潤する疾患です。IBDの発症原因は正確には明らかになってはいないものの、遺伝的な素因や消化管の環境(食事や腸内細菌など)、免疫機構の破綻などが複雑に関与して発症すると考えられています。
治療
IBDの治療としては免疫抑制剤や抗生物質の投与、食事療法などが中心となっており、本症例は現在免疫抑制剤の投与と食事療法を行っている段階です。腹水や下痢症状の改善はあるものの体重減少や低蛋白・アルブミン血症の十分な改善には至っていないため、引き続き注意深く経過観察していく必要があります。